「阿蘇」級戦艦 Imperial Japanese Navy ASO Class Battleships
要目(近代化改装工事後)
・排水量 35000t
・全長 230m ・最大幅 33m
・機関出力 120,000馬力 ・速力 30.0kt ・航続 9.600海里(16kt)
・武装 14インチ砲4連装2基
12.7センチ高角砲12基
25mm機銃3連装20基
航空兵装 : 射出機4基
水上機34機(格納庫内)
水上機10機(露天繋止)
魚雷艇 二隻
上陸用大発 四隻
機雷敷設装備
・ 同型艦 「生駒」
・ 「葛城」
・ 「大山」
概要
阿蘇級は金剛級の代艦として建造された船である。
第一次大戦において大日本帝国は日英同盟に基づいて欧州に派兵。アジアの利権と共に最新の軍事的知識を入手する事となった。
特にドイツの潜水艦による通商破壊戦と船団護衛の重要さは同じ島国としてそのまま海軍内部でも大きな流れとなり、仮想敵アメリカを前に通商破壊の研究をさせる事となった。
以下まとめられた結論は次のとおり。
1)対米戦において、通商破壊となる航路は存在しない。
2)だが、対米戦時で西海岸-ハワイ-グアム-フィリピンの補給路破壊はアメリカの作戦に影響を与えうる可能性がある。
3)海軍が計画していたマリアナ沖での決戦時においても後方輸送艦の破壊は米軍に作戦行動の自由度を失わせる。
これらの研究結果が出されたが、艦隊決戦で凝り固まった海軍首脳に受け入れられることなくこれらの成果はそのままお蔵入りとなるはずであった。
だが、ワシントン・ロンドン条約による艦隊制限がその流れを変えることとなった。
八八艦隊計画を潰され単独での米海軍に勝てないという事実は、対英債務問題でアメリカと揉めていたイギリスとの共闘に繋がり日英同盟の強化という福音をもたらす事となった。
イギリスと共闘できるという事実は海軍首脳の空気を変えた。
戦力を二分しないといけない米軍に対して、戦場を本土から遠ざければ遠ざけるほど日本は有利になる。
日英同盟強化に反発したアメリカに飴として中部太平洋の島嶼を渡し、マリアナ決戦から更に戦力を集中できる本土近隣艦隊決戦構想(名称「沖縄-硫黄島絶対防衛線構想」)が採択。その構想に従った形での補給路破壊艦を作ることとなった。
絶対防衛線内での決戦に敗れたら国が滅ぶ。戦力を集中させると同時に米軍の戦力(特に戦艦)を分散させないといけない。
こうして、太平洋を縦横に動いて米軍補給船だけを狙う補給路破壊戦艦「阿蘇」級の建造は決まった。
阿蘇級がハワイ-グアム(米軍によって急速に整備されたトラックも含まれる)-フィリピンという長大補給路を断ち切るために作られた船であるという事は先に述べた。
その上で、「沖縄-硫黄島絶対防衛線構想」によって参加してくれるであろう英軍艦隊と共同で長躯遠征してきた米軍を叩くという想定で船の整備が進められることとなった。
だが、その後阿蘇級を取り巻く環境は悲劇を通り越して喜劇ですらあった。
この船は、連合艦隊に所属していない海上護衛総隊の旗艦となってしまったのだから。
海上護衛総隊の成立は、第一次大戦に参加し欧州に軍を派遣した結果生じた通商破壊戦と船団護衛の被害の大きさから、海軍は海上護衛隊を独立させ連合艦隊(以降GF)と同格の海上護衛総隊司令部(以下GE)を発足させた。
その目的は日本本土の通商路を守る事と、侵攻してくる米軍補給路を破壊する事。設立当初は当然日本海軍の特徴から後者に重きが置かれる事となる。
だが与えられた船は古いのばかり、補給路破壊としての潜水艦と対潜水艦護衛用駆逐艦の拡充は条約に引っかかる。
第一次ロンドン条約で対象外となる1)600t以下、2)2000t以下でただし20kt、15.5センチ砲3問以下の商船護衛船の建造にGFにほとんど持っていかれる予算の中からやりくりをしてGEは作りつづける事となる。
それは「日のGF、影のGE」と海軍内でも呼ばれる事となり、GE内部でGFに対するライバル心を生むのに十分な屈辱であった。
組織というのは官僚組織であり、それゆえ自勢力を拡張のためならば国益を損ねてすらまかり通るという日本官僚病をGEもしっかりと発病していた。
彼らは奮起した。組織拡大のため、打倒GFに向けて。
まずは商船護衛船の拡充だが、潜水艦の盾となる護衛船の数は圧倒的に足りない。皮肉にも日本はこの当時世界三位の商船団を抱え込んでおり、その全てに護衛をつけるとなるとGE予算が破綻する。
「フィリピンとマリアナ落せば?」というGFのまっとうな突っ込みを無視せざる(認めてしまったら自分達の組織の存在理由がGFより劣ってしまうと判断してしまわざるをえない)を得ないGEは、民間に助けを求めた。
対潜水艦対策として本土近海で漁をする大型漁船や高速輸送船に補助を出して爆雷と大型通信機を搭載するという裏技を行使したのだ。
これにより(数だけは)GFを越えることに成功したGEはその数にものを言わせて更なる予算を要求してGFと激しく対立。「GFはGEと争いたる後に余力を持って米国と戦争する」と陸軍にまで馬鹿にされる始末となったが、GEは諦めなかった。
旧式船、予算をやりくりして作られた新造船、はては商船から漁船までかき集めて船団の盾を作ることには成功したGEではあったが、今度は高速船が無い。
船団における低速船は常に船団の周囲を守る壁であり、敵潜水艦を船団の遠くで狩る事ができる高速船をGEは欲したがこれは露骨にGFの艦隊整備計画内の駆逐艦とだぶってしまう。
GFとの関係が極度に悪化している現在、頭を下げて共同で駆逐艦を整備するなどGE首脳部はやりたくは無かった。
では、高速船の替わりに何で潜水艦を発見するか?
高速で哨戒能力が高く、強力な無線を搭載して、大は駆逐艦から小は爆雷搭載漁船を指揮しなければならない対潜水艦戦の現場を何で指揮しなければならないか?
GE司令部が頭を抱えながらも目をつけたのが、綺麗に条約から抜けていた水上航空機である。
航空機の技術革新は急速に進んでいたが、まだまだ航空機は海軍にとって色物兵器と見られる風潮が消えなかったし、水上機の回収という問題があるのだが本土で戦うのだから、いざとなったら本土に逃げ込めばいい。
かくして、GEは水上航空機の生産に励み巨大航空集団の道を歩むこととなった。
その段階で次に問題となったのは搭乗員の確保である。
優秀な登場員は次々と陸海軍に持っていかれる。そんな時にGEの人事担当者のぼやきが事態解決のきっかけとなった。
「はぁ〜。猫の手でも女でもいいからうちに来ないかなぁ…」
ぼやく方もぼやく方だが、実行する方も実行する方だろう。それだけ新参者のGEがGFの横槍に困っていたのだろう。
海軍女学校が霞ヶ浦に作られ、未来の海軍を作る優秀な女人材が次々とEFに採用されていった。
彼女らの採用を最初GFは冷笑しながら見ていたが、一次大戦で婦人部隊が後方で活躍していた事を知っている陸軍がすぐに追随するにおよんでとGFも追随。それが社会全体に広がって日本は図らずも国家総力戦の体制を整えようとしていた。
そんな中、起こった金剛級代艦建造計画である。
GEは奮起した。「ありゃ、海軍じゃなくて空軍だ」とまで言われた水上航空機特化政策によってまともな旗艦能力を持つ高速船をGEは持っていなかったからである。
「GEの象徴たる船を」。それがGEと、GE中枢に食い込んだ女性将校陣の悲願となった。
目標を持って群れる女は怖い。
政府、陸海軍、大蔵省、大本営、皇室まで巻き込んだ大ネゴシエイトの結果、金剛級代艦「阿蘇」級四隻建造予算を満額通過させるという「日本官僚史上の奇跡」を成し遂げた。
GEは狂気した。「GEのGEによるGEの為の船」という言葉がどれほどGEの士気をあげた事か。
これに対してGF司令部は激怒したが後の祭り。報復としてGFが阿蘇級を「米艦隊の囮兼捨て駒」として使う事を内々で決定した事がGFの運命を狂わすこととなる。
GEは艦政本部に「阿蘇級」の要求を告げた。
その要求を聞いた造船官の一言が歴史に残っている。
「こいつら…馬鹿か?」と。
普通戦艦というのは、相手の戦艦に対して対抗できるように作られるものである。
ところがGEが発注した戦艦は、はっきりとこう書かれていた。「戦艦戦闘については考えなくていい」と。
言われて見ればその通りだろう。GEが戦うのは潜水艦であって戦艦では無い。
それなら、戦艦より巡洋艦を多数作ったらいいのではないかという意見も出たが、GEは「戦艦」が欲しかったのだ。
こうして、造船官が絶句する「戦艦」の要求は以下の通りだった。
1) まず、旗艦としての大規模通信施設。これはいいだろう。
2) 敵戦艦から逃れるための高速化。(最速30ノットという要求の理由を聞いた造船官はGE派遣の女性将校の「キリがいいから」の一言に絶句した)
3) 後部甲板に空母さながらの格納庫の敷設。クレーン四機搭載と火薬式カタパルト二機、最後部に開閉式の扉をつけて水上機の収納を行う。
4) 長距離哨戒をする飛行艇への補給・修理能力。
5) 長距離航行能力と船員生活環境の改善。(女性が乗るのだからと、もはや造船官は諦めた)
6) 機雷敷設能力の設置。対空高射砲と機銃の大量搭載。
7) 格納庫の使いやすさ。陸軍との取引で、必要なら後部扉から上陸用大発が出せるようにとの取引がなされていた。
で、ここまで聞いた造船官は重要なことに気づいた。
彼女は主砲の事を何も言っていなかったのだから。尋ねた造船官に対する答えが冒頭の「馬鹿か」発言に繋がっている。
「ん?主砲?どーせ使わないんだから適当でいいよ」と。
艦政本部は激怒した。いったい彼女達は戦艦を何だと思っているのか!
「そう。こんな舟を戦艦とは認めない!戦艦と認めさせるために彼女達が口を挟まなかった主砲だけはきっちりと戦艦にしてやる!!」と。
かくして、GFの思惑とGEの見栄と艦政本部の意地の結果彼女達「阿蘇」級は完成した。
では、彼女達は第二次大戦時に何処で何をしていたのか?
彼女達は大西洋でGE本来の船団護衛をしていた……
「隊が曲がっていらしてよ」
凛とした一声。固まる司令部一同。
確かに、後列駆逐艦の隊列が少し乱れていた。
慌てて電文を打つ通信員を横目に「阿蘇」艦長福沢祐巳はちらりと自分のお姉さま――EF欧州派遣艦隊参謀長小笠原祥子小将――を見つめる。
「祐巳。よそ見をしない」
「はいっ!」
通信員と同じように背筋を伸ばす祐巳だが、その姿は新米水兵と変わらない。
「いいじゃない。少しぐらい気を抜いても。Uボートもここに来る勇気があるとは思えないけど?」
「おね…司令官は艦長に甘すぎです」
参謀長にとっては姉となるEF欧州派遣艦隊司令長官水野蓉子中将が呵々と笑う。
欧州派遣艦隊の回りを取り囲むのユニオンジャックの旗をつけた駆逐艦達が女王を取り囲むように整然と並び、上空にはバトル・オブ・ブリテンの最中というのに航空機まで飛ばしている。
そう。GE欧州派遣艦隊はその任務目的たる輸送船護衛を終え、女王陛下と物資を待ちわびた英国民の前でその凛々しい姿を見せ付けていた。
「阿蘇」級は太平洋で、しかも通商破壊として作られた船である。
だが、国際情勢が彼女達の運命を変えることとなった。
日英同盟の強化と債権問題、さらにアジア(中国)利権で日英と米の対立は悪化の一途を辿っていた。
日本は、関東大震災と大恐慌を英経済ブロックに組み込まれたことによってなんとか乗り切ることができたが、その代償としてこれ以上の中国への介入を禁じられてしまった。
英にすれば日本が強すぎるのを嫌ったのだろうが、日本の介入が無くなった政治的空白に二つの国が同時に乗り込んできた。
中国共産党を支援してきたソ連と国民党に急速に影響力を持つようになったアメリカである。
こうして、日英米ソの思惑と利権が激しくぶつかり合った国共内戦の結果英米関係が急速に悪化。日本も本来の予定に従い本土で米艦隊を待ち受ける体制を取った。
だが、中国を巡る争いは唐突に日英が中国から手を引くことで米ソ代理戦争の様相を見せることとなった。
ナチスの台頭と第二次大戦の勃発である。
ダンゲルグでかろうじて兵力は引き上げた英は欧州を席巻したドイツの前に風前の灯火のように見えたがここから英外交の真骨頂が始まる。
中国利権を餌に米と関係を改善させ、日英同盟の履行を求めて日本に対独参戦を求めたのだ。
当然日本はこの英の要請を受諾。
大西洋で行われている独通商破壊戦を妨害すべくGEを欧州に派遣することとなった。
「女ばかりの海軍に何ができるか!」
と、ドイツ宣伝相は演説で貶したが、宣戦から一週間もしないうちにその影響が出だしてきた。
GEはまず「海軍では無く空軍」と揶揄された飛行艇部隊をインド洋に展開。シンガポールとコロンボに派遣された飛行艇部隊はその長大な航続力はインド洋でのドイツ潜水艦の行動を見る見る内に中止に追い込んでしまった。
さらに、英海軍東洋艦隊が大西洋に戻され、GE飛行艇部隊がケープタウンに派遣されるに及んで南大西洋の活動に影響が出るようになってしまう。ここまでわずか三ヶ月。
そして、欧州派遣艦隊として「阿蘇」級四隻(阿蘇・生駒・葛城・大山)の派遣である。
GEの切り札「阿蘇」級の全力出撃によってGFは艦隊を温存させる策を取ったのだ。後にGFはその代償を払い後悔することとなる。
日英護衛駆逐艦を引きつれての仕事は米から送られた援助物資が満載に詰まれた船団の護衛だった。
政治的意味合いを十二分に含んでいたこの船団に対して独海軍も総力をあげて攻撃を仕掛けたが、そこで「阿蘇」級はその凶悪さを見せることとなる。
まず、全力160機以上の水上機による哨戒と攻撃は独潜水艦を近づけさせなかったし、問題となった水上機の回収もローテーションを組んで一隻が後方で止まって回収することで運用する事となった。
さらに飛行艇を片道切符で船団まで跳ばして「阿蘇」級で補給・帰還という手段で上空哨戒能力を更に高め、英供与のレーダー装備飛行艇が夜間にまで飛び回る事態になってついに独海軍はこの艦隊への攻撃を諦めることとなった。
撃沈潜水艦15隻。船団被害0。鮮やかなワンサイドゲームはこの戦争の分水嶺となる。
米ソが中国で望んで介入した結果泥沼のゲリラ戦にはまり込んで対独宣戦など出来ない状態でこの政治的得点は絶大だった。
この援助物資と政治的得点でイギリスは息を吹き返して最後まで本土を守り通し、英本土防衛の為に彼女達は第二次大戦終結まで大西洋に留まり多くの船団の守り神となった。
そう。第二次大戦で戦ったのは陸軍でもGFでも無く、GEだけだったのだ。
これの持つ意味が分からないほど日本の官僚機構は馬鹿では無かった。
二次大戦終結後にいくつかの政変とクーデター未遂により明治憲法が一部改正され国防省と統合軍令本部が設立されたとき、その中枢にいたのはGEの首脳部だった。
そう。彼女達は約半世紀かけてやっと政治の表舞台に立つことが出来たのだ。
余談だが、「阿蘇級」が大西洋に留まっている間彼女達の事を連合軍将兵は大量の女性将兵が乗っていることから「マリア様」と呼ばれ、常時飛んでいる水上機の事を指して「マリア様がみてる」と言って喜んだという。
言い訳という名のあとがき
は〜長かった。
今回の船を作ろう企画の妄想材料は二つ。「ライム色戦記憚」のあのチラリズムEDと「マリア様がみてる」の祥子様の一言。
それだけのために火葬色物戦艦を作ってしまいました(爆)。
当初の計画段階では、「160機の水上機が上空直援して米攻撃隊を襲う」というコンセプトだったのですが、ど〜考えても最後は米軍に沈められそうだから、確実に生き残る様に敵を変えてしまいました。
「阿蘇」級というよりGEの権力奪取物語という風が強いのですが、とりあえず船を作るための背後関係がこんなにやっかいなのかとはやって見るまで分かりませんでした。
あと、日記ではEFと表記していた海上護衛総隊を正しい名称らしいGEに変更。
若干の加筆修正を行いました。
知識と努力と萌えパワー如何によっては、大西洋上での独艦隊との戦闘でもやらせて見たいと思いますがそれはまた別の話で。
最後にアドバイスと阿蘇の絵を書いていただいた水上隆蘆氏に感謝を。