アコライトになってお師様について修行の毎日だった僕がそのプリさんに気づいたのは、かぶっていたバフォ帽が珍しかったからでも、その人が美しかった(いや、凄い美人だったんだけど)からでもなかった。

「あのっ!すいませんっ!!」

 何も考えずにそのプリさんに声をかける。

「なぁに?」

 振り向いて微笑むそのプリさんの背後には、人には見えないだろう凄まじい怨念が取り巻いていたのだから。



「こんな事を言うのもなんだと思うのですが、聞いてください!」

 できる限り真顔で一生懸命に説得しないと。

 普通の人には見えない「想い」の糸。

 それが強ければ強いほど操り糸のように人の人生を操る。

 その糸を解いて、人から離してあげて人を「想い」から救うってあげるのが僕の秘密の仕事。まだ未熟だけど。

 まだ修行を始めてまもない僕でも、この人についている「想い」の糸の尋常さには気づかざるをえない。

 こんなに大量の糸が絡まっているなんて……普通なら間違いなく呪われる。いや、憑かれ殺される。

「貴方の後ろに大量の怨念が漂っているんです!今すぐ葬魂か浄霊をして……」

「いいのよ。知っているから」

 あっさりとその人が言った一言に僕は完全に固まった。

「は?…今、なんて……」

「だから、貴方の見えているものを私は分かって憑けているのよ♪」

「どうしてっ!そんなに憑けていたら貴方がその想いに操られて不幸になりますよっ!」

 一生懸命説得する僕にその人は優しく微笑んで理由を話してくれた。

「この想いの正体はね。人間の想いじゃないのよ。魔族達の想いなの」

「魔族??」

 僕は混乱した。

 お師様は人の想いについては説明してくれたが魔族の「想い」なんて教えてくれなかった。

 なにより、魔族って狩る者で人間の敵で殺して神の国に導くものじゃないのだろうか?

 その人はその混乱を分かって話を続けた。

「今は、分からなくていいわ。

 貴方が本当にこの糸の意味を知ったのならば、その時こそ解きにきてちょうだい。

 私は、いつまでも待ってあげるから♪」

 その人は軽く僕の頭をなでて軽やかなステップで行ってしまった。


♪回れ回れ世界よ回れ〜

 終わらない舞台は続く〜〜


♪降りる事ができぬ舞台なら〜

 せめて楽しく踊りましょう〜〜


 その人が歌いながら去っていっても、僕は何もできずにその場所に佇んでいた。


「で、お前はそのまま帰ってきたという訳だ……」

 事の一部始終をお師様に話した時、お師様は煙草を投げ捨てて目線をそらす。

「はい……僕は何もできませんでした……本当に良かったんでしょうか……?」

 こういう時のお師様はいつもぶっきらぼうに物事を言う。

 それが、浄霊を行った時にいつもお師様が見せている表情なのを僕は知っている。

「まだ、お前には教えていなかったな。

 生きとし生ける者には全て「想い」がある。

 そのプリいわく魔族にもある。むしろ魔族にとってその「想い」は俺たちよりも大事なんだ。

 何しろ、悪霊の元だからな。そんな負の想いは」

「それじゃあ、あのプリさんはもう憑かれていたんですか?」

「違うな。その分じゃ自分から望んだんだろうよ。

 しかも、そのプリはその『想い』をきっちり管理しているんだろうよ。まるでマフラーでも羽織るようにな」

「なんでなんですか?そのプリさんはなんでそんな危ない事をしているんですか?」

 お師様は複雑な顔をして、

「わかんね〜」

 としか言いませんでした。


「あいつにもそろそろ教えないといけないのかもしれないな……

 俺らの仕事は人間、しかも生者のエゴの一つでしかないという事に……」

 煙草を吸いながら、アコきゅんの師匠は苦々しそうに呟いています。

「想いが生者を操るのなら、その思いは俺らが悪霊と呼んじゃいるが、生きているのと代わりが無い。

 結局、生者と死者という区分をつけて生者を助けているに過ぎん。

 多分、そのプリは死者を救おうとしているんだろうな……それで取りこまれも操られもしねぇ。

 たいした使い手なもんだ……」

 煙草を投げ捨てて、アコきゅんの師匠は修行場に歩いて行きました。

 アコきゅんの修行を見ないといけないし、彼自身も修行がやりたくなったのですから。

 いつか対峙しないと行けない、そのプリとの出会いに備えて。




あとがきみたいなもの

 これは萌え小説スレ三巻の14様の設定をありがたく使って書いたもの。

 当初はこの設定にママプリを絡ませただけのつもりだったのだが、まさか独立するとは……(笑)