「あ、これ?」
給仕の女性は君が見ている前でこともなげに張り紙をはがすと、
カウンターに広げて微笑んだ。
「このあたりでTRPGコンベンションをやってるっていうから、
宣伝に貼らせてくれって」
松山市市民会館……。
なるほど、この赤く塗られている場所か。
「ここの3階の、第5会議室、っていう部屋でやってるそうよ。
参加は自由らしいから、興味あったら行ってみたらいいんじゃないかな?」
10月5日(日)か。
そろそろ秋らしくなるころ、かな。
「見かけによらず詩人なのね」
わざとらしく驚いて、彼女が笑った。
失礼な話だ。
「そうね、確かに秋だけど、まだ油断はできないわよ……?」
そういって意味ありげに片目をつぶる。
何があるって言うんだ?
「9月ほど暑くはないと思うけど、逆に空調が弱められる時期なのよ。
だから油断すると思ったより暑い目にあうかも……?
調整のしやすい格好で行くことをお勧めするわ」
なるほど。公共の施設はそういうところがあるな、確かに。
「開場は9時、9時半開会らしいよ。
行くなら遅れないようにね」
まぁ、特に用事もなかったと思うし、行ってみようか。
そういえば、何か要る物とか準備とか、あるのだろうか。
「特別なものは何もないって言ってたわ。
開場使用料の500円と、お昼ご飯代。筆記用具に、あればサイコロ。
あとは、ゲームを楽しみたい、って気持ちね」
そう言って彼女は片目をつぶってみせた。
「注意点はあと2つ……ううん、3つかな?」
指を折りながら、数える彼女。
「まずは、駐車場がないので、公共の交通機関を使ってほしい、ってこと」
周辺に100円パーキングはあるらしいが、空いているかどうかの保証はない。
「それから、寝不足はNGよ。
お肌にも悪いしね?」
秋は気候がいいからつい夜更かししがちだ。気をつけよう。
「最後に、ゲームを楽しむ気持ちと同じくらいの、
ゲームを楽しませる気持ちを持ってくること、かな」
一般の参加者なのに?
「TRPGは参加者全員がホストでありゲストなのよ。
互いが互いを楽しませて初めて、いいお話が完成するのよ」
なんだか難しそうだな。
「あはは、ちょっと大げさだったかな?
要は、あなたがステキなキャラクターを楽しめれば、
周りの人もそれに負けじとステキなキャラクターを演じてくれるし、
ゲームマスターだってそれに応えてくれる。
そんな、背伸びしないサービスの応酬を楽しんでほしいって事よ」
ややこしいな……。
「まぁ、参加して楽しみたいと思ったその時点で、
条件はほぼすべてクリアされてるわ。
心の隅っこにでも留めておけば、それで充分よ」
そういってまた、いたずらっぽく片目をつぶってみせた。